− Ｂｉｒｔｈｄａｙ − （主人公Side）
「やっぱり明日も・・・・・・一日 学校ですよね？」
わたしは 零一さんに聞いてみる。でも・・・・・・
「そうだ。文化祭まであとわずかだからな。
文化祭が終わるまでは すまないが・・・・・・。」
零一さんの答えは やっぱりわたしの予想通りで・・・・・・・。
だからわたしは こう答えるしかなかった。
「わかってます。文化祭のステージは見に行きますからね？」
「ああ。」
「寒くなってきたから 風邪なんか引かないように気をつけて
くださいね？」
「それは君もだろう？ 」
「はーい」
「それでは・・・・・・。」
電話が切れると わたしは深いため息をついた。
（あーあ 明日は 零一さんの誕生日なのにな・・・・・・。
あの調子だと 自分の誕生日のこと忘れてるよね？ 絶対。）
１０月始めに一度あったきり 零一さんとはずっと顔を合わせていない。
電話こそ ほぼ毎日して声は聞いているけれど・・・・・・
こんなに長い間 会わないのは これが初めてだった。
零一さんと付き合いだして 約半年。
学校の先生って すごく大変なんだと あらためて知った。
日々の授業だけでなく 部活動もそうだし 学園内の細々とした
雑用もあって ホントに暇な時間なんてない。
長期休暇だと思っていた夏休みでさえ 当直が何日もあったりするし。
また 零一さんにはお得意（？）の課外授業もあるし。
そういう生活の中 わたしとのデートの時間もつくってくれて
いるんだから わがまま言っちゃいけない・・・・・・。
と いつものわたしなら 次の約束の日までおとなしく待っている
ところなんだけど・・・・・・
（零一さんは わたしと会わなくても全然平気なのかな・・・・・・）
零一さんも 文化祭準備で忙しいのは分かるけど・・・・・・
本当にそれだけで「会えない」わけ？
（わたしも一応 吹奏楽部員だったし 「完全な調和」を求める
”氷室先生”の練習の厳しさは知ってるつもりだけど。でも！）
こうも「文化祭が終わるまでは会えない」の一点張りだと・・・・・・
まさか わたしの他に好きな生徒が出来たとか？ と疑いたくもなる。
（そう。だって ”氷室先生” 結構人気あるんだよね。）
今も たまにラブレターもらったりしてるの わたし知ってる。
零一さんが 自宅の書斎で採点していた 課外授業のレポートの間
から何通か出てきたのを目撃したことがある。
零一さん 読まずにそのままレポートに挟みなおして返却していた
みたいだけど。
（いけない いけない。悪い方向に考えるのは わたしの悪い癖だ。）
わたしは気を取り直してカレンダーを見ながら考える。
やっぱり 一応恋人同士になって迎える初めての誕生日なんだから
誕生日当日に直接顔を見てプレゼントを渡したい！
幸い 明日は日曜日で学校もない。
（明日 零一さんに会いに 直接”はば学”に行こう！
吹奏楽部の方に顔を出して 後輩達の様子を見に来たとか言えば
言い訳も立つし。）
そう考えながら わたしはどのタイミングで用意したプレゼントを
零一さんに渡そうかと考えていた。
そして２００５年１１月６日 日曜日の午後。
わたしは 昔通学路として使っていた 長い坂道を上って”はば学”に
向かっていた。
”はば学”に行くのは 卒業式以来だから８ヶ月ぶりくらいになる。
学園内は 日曜日にもかかわらず たくさんの生徒と先生が登校して
きてて 文化祭の準備で活気づいていた。
わたしは零一さんを探す。
校内に入る前 駐車場に零一さんの車が止まっているのを確認して
きたから 学園内のどこかにいることは間違いない。
でも 職員室へも顔を出したけど いなかった。
他の先生から聞いた様子だと どうやら音楽室にいるらしい。
音楽室へ出向くと 吹奏楽部はちょうど全体練習の真っ最中だった。
（ちょっと来るの遅かったかな・・・・・・ あ いた。）
零一さんが 各パート毎に細かく指導してる姿が見える。
聞いてるみんなも真剣だ。
（わたしも去年までは あの輪の中にいたんだよな・・・・・・）
そんなことを考えながら・・・・・・ わたしは音楽室の外から
後輩達の演奏をじっと聞いていた。
３０分くらいたっただろうか。全体練習が終わったようだ。
零一さんが音楽室から出てこようとしている。
（わわっ こっちに来る！）
わたしはとっさに 音楽室の隣にある音楽準備室に身を隠した。
（わたし なにやってるんだろ・・・・・・。別に隠れなくてもいいのに。）
やっぱり零一さんに内緒でここまで来てしまったことについて
少し後ろめたい気持ちがあったのかも知れないなとちょっぴり
自己嫌悪に陥りそうになる。
その時 廊下から
「氷室先生」
と 誰かが零一さんを呼び止める声が聞こえてきて。
わたしは息を潜めた。
＋ Next ＋