Ｐｉａｎｏ　〜ある休日の午後〜





物心ついたころから　俺の回りにはいつもピアノがあった。
両親がピアニストだった家庭環境を考えれば　当たり前の
ことかも知れない。
気が付けば俺も自然とピアノを弾くようになっていた。

ピアノを弾くのは　とても楽しい。
自分の思うとおりに奏でられる　そんなピアノを俺はどんどん
好きになっていった。
俺は何かあるとすぐ　ピアノに向かうようになっていた。

いつしかピアノの前にいると素直になれる　そんな自分がいた。
心を落ち着かせるために　ピアノの前に座ることが多かった。
昔から融通が利かなくて　人と衝突することの多かった俺の
精神安定剤のようなものだったのかもしれない。

周囲の人は　そんな俺の姿を見て　将来はピアニストになるの
だろうと思っていたようだが　実際に俺はその道を選ばなかった。

理由は　ピアノだけは数少ない自分の「趣味」として　残して
おきたかったからだ。

「趣味」がそのまま自分の「職業」になってしまうことだけは
・・・・・・避けたかったのだ。

仕事は・・・・・・いつも楽しいことばかりではない。
もし「ピアノ」を自分の職業にしたとしたら・・・・・・
行き詰まったときに　逃げ場が無くなってしまう。

両親を見ていて　本能的にそう感じていたのかも知れない。
俺は自分で自分の居場所を確保しておきたかったんだ。

結果　俺は両親とは全く別の「教職」という道を選択した。

「教職」に就いた今も　前と変わらず俺はピアノを弾く。
学生の頃に比べれば　弾く頻度は明らかに減っているが
・・・・・・腕は錆びついていないと思う・・・・・・。


　「ピアノを弾くことにより　自分の心の均衡を保っているのは
　　昔も今も変わらないな。
　　そしてそれはきっとこれからも変わらない。」


君は　そんな俺の昔話を微笑みながら聞いている。


　「つまらない話を聞かせてしまったな」
　
　「そんなことないです。零一さんのことを　またひとつ
　　知ることが出来ましたから。」


本当に君は　嬉しそうに微笑むんだな。
そんな君の顔を見て　俺はつぶやく。


　「しかし　ひとつ変わったこともあるか・・・・・・」

　「え？　・・・・・・何が変わったんですか？」

　「・・・・・・秘密だ。」


そう言いながら　俺は君を抱き寄せて　何か言いたげな
君のくちびるを塞ぐようにキスをした。


　「昔話は終わりだ。もう一曲弾こう。
　　　何かリクエストはあるか？」

　「・・・・・・もうっ　零一さんってば！
　　はぐらかしてますね？」


真っ赤な顔をして　うつむいている君を横目にしながら
俺はまたピアノを弾き始めた。

変わったこと・・・・・・。
それは　俺の側に君がいてくれるようになったこと。
君は俺の奏でるピアノの側で　いつも微笑んでいてくれること。
その君の微笑みが　俺の心を潤してくれている。
俺はとても満ち足りた気持ちになれるのだ。

だから俺は　これからは自分のためだけでなく・・・・・・
君が望むなら　俺はいつでも君のためにピアノを弾きたいとも
思っている。

・・・・・・　君が俺の側にいる限り。





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駄文その４にして　初のせんせぇSideのＳＳです。
む・・・難しかった。
最後まで「俺」にするか「私」にするか　悩んだ末「俺」にして
みることにしました。
（そういや　前から予告しているせんせぇSideのＳＳはどうなって
いるんでしょうねぇ？：爆）
時期的なものとしては　当然卒業後の話です。
なんか作者の知らないうちに名前を呼び合っているし
既にファーストキス済みの様子（←って一体いつなんだ！？）だし・・・
むーん（ちゅど〜ん：自爆）

今回は『先生スキーに８１の質問』の中の６３問目

『氷室先生は何故ピアニストにならなかったのでしょう？』

と言う質問から　捏造してみましたが・・・・・・。
最後がなんかうまくまとめられなくて（涙）

そのうち　手直しするかもしれないですが
取りあえず「８１の質問」全問制覇（？）記念といたしまして
公開（そして後悔か？）することにします。
読んでくださってありがとうございました。


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