My　Birthday
　
　
　最後に誕生日を誰かから祝ってもらったのは、いつだっただろうか。
　俺は、自分自身の誕生日すら忘れてしまっていた。
　
　いや、忘れようとしてた。
　
　誕生日の思いでと言えば、幼き日、母が焼いてくれたアップルパイだろうか。
　料理が全くと言っていいほど出来なかった彼女は、俺の誕生日にだけは、腕を振るって、アップルパイを焼いてくれた。
　それが、彼女の唯一の得意料理だったのかもしれない。
　
　そのアップルパイのせいか、俺はこの季節になると、あの甘酸っぱい香りを思い出す。
　
　
　母がアップルパイを焼かなくなったのは、いつからだったろうか。
　俺が、中学生になる頃には、もう焼かなくなっていたのかもしれない。
　母自身、仕事が忙しくなってきたこともあった。
　そして、俺も、母の唯一の愛情表現を受けることを拒否したのだ。
　
　
　いつまでも、子供ではない。
　子供ではいられない。
　
　
　今思えば、反抗期の一種だったのだろう。
　俺も、まだまだ子供だったのだと、自嘲したくなるような行動だ。
　
　
　それ以来、ずいぶん長い間、アップルパイを食べることはなかった。
　
　
　君が、俺の為に、焼いてくれるまでは。
　
　
　「はい。先生。．．．じゃなかった。零一さん。出来ましたよ。」
　
　君が、俺のために焼いてくれるアップルパイ。
　もう、何度、口にすることだろう。
　
　「．．．？　零一さん？」
　
　「．．．あぁ。すまない。．．．今年も、いい出来だな。」
　「へへ、頑張ってみました。さ、食べましょ！」
　
　俺は、ソファから立ち上がり、君を抱きしめる。
　
　「ーーー！！　零一さんっ！」
　
　「．．．君が居てくれて良かった。」
　
　心から、そう思う。
　
　
　誰かが、俺の誕生日を祝ってくれる。
　たったそれだけのことが、こんなに幸せだとは思わなかった。
　君に出会うまで、こんな気持ちを忘れていた。
　
　「．．．。」
　
　ありがとう。
　
　君には、心から、そう伝えたい。
　
　そして、俺をこの世に生み出してくれた母に。





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素敵サイト『ザッショクゲキジョウ』（管理人・神名まなサマ）
から強奪してきた氷室先生のお誕生日企画ＳＳです。

神名さんの書かれるせんせぇはオトナで素敵すぎ・・・・・・。
神名さん　素敵ＳＳをありがとうございました♪


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