卒業して初めてのクリスマス…

でも、先生は理事長先生のパーティーに出席しなくちゃいけない。

パーティーの後でもいいから

ちょっとでもいいから

一緒にいたいな…。

叶わない願いだと知りつつも運転席の先生の横顔を見つめる

「どうした？。気分でも悪いのか。」
私の視線に気が付いた先生は心配そうに声をかけてくる。

「いいえ、今日も楽しかったです。先生、また連れて行ってくださいね。」
「ああ。」
課外授業はデートへと名前を変えてからも、夜遅くまでのデートなんてなかなかしてくれない。
未成年者を遅くまでつれて歩く事はできない！って言うのが先生の口癖、しょうがないのかな…先生にとって私はまだ子供なんだろう。
何時まで経っても埋まらない１１歳の歳の差は、時々私を不安にさせる。

もっともっと一緒にいたいのに。

もうすぐ家の前に着くかという時、先生が不意に喋りだした。

「、明日の予定なんだが…何か入っているか？」
「どうしたんですか、先生は理事長先生のパーティーに出席なさるんでしょう？」
「ん、まあ、そうなんだが。君はどうするんだろうと思ったのでな。」
「はば学卒業生のパーティーに呼ばれています、有沢さんや奈津美ちゃんが一緒にどう？って言ってくれたから。」
「そうか…、あまり遅くならないように。何かと浮かれて騒ぐ連中が多いからな。」

先生は何か言いたそうにしたけど、口を噤んでしまった。

行くなっていってくれたら、私行かないのに…。

車はいつものように家の少し手前で止まり、さよならのキスを交わす。
先生のキスはいつもより切なく私の心を締め付ける。

クリスマス、一緒に過ごしたいんです

プレゼントも何もいらないから一緒にいたい…

こんな事言ったら先生は困るだけかな

やっぱり　　　言えないよ。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



『はば学卒業生の…』
と聞いたときに俺の頭には彼女を取り巻いていた、学生達の顔が浮かぶ。
女生徒だけではなく、男子生徒の面々。

葉月、彼も来るのであろうか。

別れた時のあの切なそうな表情が目の前をちらつく。

君は何を言いたかったのか…。


少し気持ちを落ち着かせたくて、俺はあいつのバーへと車を走らせる。

「いらっしゃい、ってなんだ零一。しけた面してどうした。」
「うるさい、それが客に向かって言うことか…。いつものやつを、頼む。」
わかっているのかそれ以上突っ込んでこない、こいつは何でもお見通しなんだな。

「ほら、飲めよ。…で、明日は生徒さんと此処に来てくれるんだろ？」
「いや…。」
痛いところをついてくる。
「あ、生徒さんじゃなくて、”彼女”だったな。」
ニヤニヤしながらわざと”彼女”って所を強調している、本当にやな奴だ。
だが、こいつに意見を求めたくて此処に着たんだと自分でも思う。恋愛経験はこいつの方が豊富だからな。

なかなか喋りださない俺を変に思ったのかあいつが先に聞いてきた。

「まさか…零一、お前明日も例の学園のパーティーに出席するんじゃないだろうな。」
「当然だ、教師は全員参加だからな。」
俺の返答を聞いて呆れ顔をして一言言うとカウンターの奥に引っ込んでしまった。
「あ〜あ、こんな堅物見たことがない。彼女が泣いてるぜ、まったく。何処の世界に恋人をほったらかす奴がいるんだ。馬鹿だ、お前は。」

取り残された俺はジントニックを飲みながら去年の事を思い出していた。
去年はパーティーが終わったあと俺に頼み込んできたんだったな、君は。
一人で帰宅させるのは危険だからという大義名分のもと、此処に連れて来たときの君はとても嬉しそうだった。

だが、あの時は自分でももう少し一緒にいたかったから。

今は…

俺は…どうしたい…

君は、何を言いたかった…

「ピアノ、借りるぞ。」
カウンターの向こう側で客の相手をしているあいつに断りをいれ、俺はピアノを弾く。


答えは、そう…最初からわかっていた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


久しぶりに皆と会えたのは嬉しかったけど、私の心はまだ霧がかかったようにもやもやしている。
皆と騒ぎながらも頭の中では、先生のことを考えていた。
今頃、後輩達に囲まれて…プレゼントどんな子が貰ったんだろう。
ひとしきり騒いだ後、お開きになってボーっとしながら帰り道を歩いていると携帯の着信音がした。

この音は…先生？でもどうして…。

『、氷室だ。今、何処にいる？』
『商店街を歩いてますけど、雑貨屋シモンの前ぐらいです。』
『すぐに迎えに行くから、そこにいなさい。』
『え、え、でも先生、パーティーは？』
『早退した、とにかく迎えに行くまでそこにいる事、いいな。』
『はい。』

先生を待っている間に缶コーヒーを買って手を温めていた、ちょっとパーティーだったからって薄着しすぎたかな。
コートを着ていても吹き付ける風が冷たくて、思わず身震いする。
寒さに震えながらキョロキョロと辺りを見回すと幸せそうなカップルばかりが目に付いて、クリスマスが恋人達の一大イベントであるってことを見せつけられているような気がした。

先生、早くきて…

心細くなり泣きたくなってきた時、白い息を吐きながら走って来る先生が見えた。

先生…

普段は決して慌てて走るなんてことしないのに、嬉しくなって思わず駆け出すと先生の胸へと飛び込んだ。

「すまなかった…。」
先生は優しく言うとそっと私を離して、自分のしていたマフラーを私にかけてくれる。
寒くて淋しくて凍えそうだった心も先生が此処にいてくれるだけでこんなに暖かくなるなんて。

「今日はもう会えないと思ってました…。」
「本当にすまなかった。淋しい思いをさせてしまったようだな。」
凄く申し訳なさそうな顔をして私の冷たくなった髪を撫でている。

「いいんです、今こうして会えただけでも十分ですから。」
「もういいのか？これから出掛けようと思っていたのだが…。」
「え、う、嘘です。もっと一緒にいたいです！」

私のうろたえる様子を見て声を上げて笑うと
「冗談だ、あいつの店に何か用意してあるらしい。…行くぞ。」
頭をポンポンと叩いて、タクシーを拾う先生の様子はいつもと少し違うような気がしたけど…。

ほんの少し心の距離が縮まったようで嬉しかった。

今日先生と会えたのはもしかしたらサンタクロースのプレゼントかもしれないと心の中で思った。