−　Ｂｉｒｔｈｄａｙ　−　（マスターSide）





2005年11月5日　土曜日。
今日も俺はいつも通りに店を開ける。
お陰様で　週末ということもあり　店内は賑わっていた。

（お客様はホントに神様！　だよなぁ）

なんて考えていたところに久しぶりにアイツがやってきた。


　「いらっしゃい！　って・・・・・・なんだ零一か。」


その客は　俺の古くからの友人　氷室零一だった。


　「よぉ久しぶり。あれ？　今日はちゃん　一緒じゃないのか？」


最近じゃ　いつも零一の彼女・・・・・・
そう　ちゃんと一緒に来るのが当たり前になっていたのに
今日はめずらしくアイツ一人での来店だった。


　「・・・・・・当然だ。未成年者をこんな遅い時間に連れて歩ける
　わけがないだろう？」

　「オマエも相変わらずだなぁ。まだ９時だよ？」


と言ったところで　零一が俺を睨んだ。

（・・・・・・こりゃ　なんかあったかな？）

これは長年友人として付き合ってきた俺のカンだ。
早いとこ　話を聞いてやった方がよさそうだ。


　「・・・・・・いつものでいいか？」

　「ああ。」


零一に酒を出してやりながら　俺は口火を切った。


　「なあ　零一　なんかあったのか？」

　「別に・・・・・・。」


嘘だな。こういう時の零一は　絶対になにかある。
まぁ今のオマエに何か「ある」とすれば　ちゃん関連しか
ないだろうけど。


　「まさかオマエ　ちゃんと喧嘩したとか？」

　「喧嘩などしていない。」

　「じゃあ　なんでそんな顔しているんだよ？」

　「・・・・・・。」

しばらく沈黙が続いた後　零一はこう言い出した。


　「・・・・・・しばらく会っていないんだ。」

　「はぁ？　どうして！」


”しばらく会っていない”
それは俺の予想外の言葉だった。

零一の話を簡単にまとめるとこうだ。
１０月に入ってから　零一とちゃんの予定が合わなくて
もう１ヶ月近くも会っていないのだそうだ。
なんでも１０月前半はちゃんが　後半に入ってからは零一が
それぞれ学校の学園祭の準備とかで忙しくてというのが理由らしい。


　「なんだよそれ。オマエはそれでいいのか？　ちゃんに
　会いたくないのか？」

　「そんなことはない・・・・・・。会いたいのはやまやまだ。」

　「じゃあ今すぐにでも会いに行けばいいじゃないか。」

　「しかし　私の都合に合わせれば　こんな夜にしか時間が
　取れないだろう？　未成年者である彼女を　こんな遅い時間に
　外出させるわけにはいかない。それに・・・・・・。」

　「それに？」

　「彼女もまだ学生だ。夜遅くなれば翌日に響くだろう。」

　「って・・・・・・。」


俺は零一の話を聞いて　頭を抱える。

しかしホントに融通が利かない奴だよな。零一って。
これじゃ　ちゃんも可哀想だ。
きっとちゃんも　零一に会いたがっているだろうに。
でも「忙しくてしばらく逢えない」なんてコイツに言われたら
ちゃんも　それに従うしかないのか？

まあ　こいつのこういう性格は　多分ずっと直らないんだろう。
だとしたら　そういう部分も納得した上で付き合っていくしか
ないんだろうけど・・・・・・。


　「零一・・・・・・この際だからハッキリと言わせてもらうけど。
　オマエさぁ・・・・・・。」

　「なんだ？」


俺は一呼吸置いてから　零一にこう告げた。


　「ちゃんの前でも　あいかわらず”教師”のまんまだよな。
　いや”保護者”って言った方が合ってるか？」

　「・・・・・・俺はそんなつもりはない。」

　「いや〜　俺にはそうは見えないね・・・・・・。
　大切にしておきたい気持ちも分かるけどな。ちゃん　ホントに
　いいコだもんなぁ。でも　ちゃんも来年は二十歳だろう？
　零一が思っているほど　彼女は子供じゃないと俺は思うぞ」

　「・・・・・・オマエに言われなくない。」

　「彼女が”生徒”じゃなくなって　もう半年以上経ってるんだろ？
　いつまでも”生徒”扱いのままじゃぁ　いつか逃げられるぞ。」


零一が俺から視線を逸らして　手に持っているグラスを見つめた。
俺はお構いなしに話を続ける。


　「それにオマエは・・・・・・普段から言葉が足らなさすぎる。」

　「・・・・・・。」

　「言葉に出さずに　オマエの考えを全部分かってもらおうなんて
　思うなよ？　ただでさえオマエは誤解されやすいんだからな。」

　「それは・・・・・・分かっている。」

　「そうかなあ〜？　オマエのことだから　今回のことだって
　ただ”忙しいから今は会えない”とかしか言ってないんじゃないか？」

　「・・・・・・。」

　「・・・・・・図星かよ・・・・・・。」

　「・・・・・・・・・・・・。」


そのまま黙りこくってしまった零一に俺は更にこう言う。


　「とにかくだ！　ちゃんと今の零一の気持ちを伝えて　ちゃんの
　気持ちをしっかりつかまえておけよ。」

　「・・・・・・そう・・・・・・だな。」


（もうこの際だから　一緒に暮らしちまえばいいんじゃないか？
そうしたら毎日逢えるぞ？）


とも言ってやろうかとも思ったけど　今日のところは言わないでおこう。


　「ホラ　分かったんだったら　景気づけにピアノでも弾いてこいよ。」


零一は手にしていたグラスをテーブルに置くと　何も言わずに立ち上がって
ピアノへと向かっていった。

ピアノの音色はいつものアイツの音色だ。
ちゃんにこのピアノ　聴かせてやりたいよ。

しかしホントにこれからどうなることやら。心配だよ俺は。

俺に出来ることと言えば　こうやってときどき零一に
ハッパをかけることくらいしか出来ないけどな。
それでもよかったら　またウチの店に来ればいい。
いくらでも話し相手になってやるから。


でも・・・・・・
次に俺の店に来るときは必ず２人で来いよな。零一。







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せんせぇのお誕生日企画『１１月６日から１２日は氷室先生週間です』
で恐れ多くもフリーにしていたＳＳ「マスターSide」です。

せんせぇの誕生日　序章という感じで（爆）
マスターの台詞がせんせぇへの「プレゼント」になればいいなと
思って書きました。

そもそも　マスターが出てきた時点で　私が当初考えていた
話とは別の方向に行ってしまった気もするんですが・・・・・・
まぁ　それはいいことにします（笑）

2002/11/6　脱稿。

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