翌日・・・・・・。
俺は　吹奏楽部の練習とクラスの展示の準備とで
音楽室とクラスと職員室を交互に行き来していた。

文化祭準備期間は　さすがの俺でも日付感覚が薄れがちになる。
頭の中にあるのは　文化祭当日まであと何日か　ということだけだ。

今日の吹奏楽部の全体練習を終え　職員室に戻ろうとしたその時
俺はとある女子生徒に呼び止められた。


　「氷室先生」


１年生の齋藤だった。
氷室学級の生徒ではないが　なかなか優秀な成績であったと記憶している。


　「どうした？　何か用か？」

　「ハイ。先生　今日お誕生日ですよね？　あの・・・・・・
　これ誕生日のプレゼントです」


齋藤にそう言われて俺ははっとした。


（そうか　今日は俺の誕生日だったのか・・・・・・）


　『やっぱり明日も・・・・・・一日　学校ですよね？』


昨日のとの電話のやりとりを思い出す。


（の台詞の意味は　そういうことだったのか。
そうならそうと　何故言わない？
・・・・・・いや　俺が言えないようにしてしまった
のかもしれない・・・・・・。）


そう考えながら　俺は齋藤にこう答える。


　「私は生徒からの贈答品は受け取りかねる。以上だ。」

　「そうですか・・・・・・」


齋藤は　肩を落としてその場を去っていった。
そんな齋藤の後ろ姿を見ながら　俺はのことを考えていた。


（そういえば　も在学中はこうして俺のところへプレゼントを
持ってきていたな・・・・・・）


会えなくなってからと言うものの　俺は彼女のことばかり
考えている気がする・・・・・・。


その時　音楽準備室の方から　ガチャンと　何かが
崩れ落ちたような音がした。


　「誰かそこにいるのか？」


俺は音楽準備室に近づきドアを開ける。
すると　そこには信じられない光景があった。

・・・・・・彼女が・・・・・・が立っていたのだ。


　「ごめんなさい。立ち聞きするつもりはなかったんですけど・・・・・・。」

　「き　君は・・・・・・。・・・・・・？」


ここにいるはずのないの姿を見て　俺は一瞬夢を見ているのでは
ないかと思った。


　「・・・・・・何故君がここに居る？」


・・・・・・今すぐに彼女に触れて　抱きしめたい衝動を抑えながら
俺は　やっとの思いで　そう彼女に問いかけた。


　「すみません・・・・・・。あの・・・・・・　わたし・・・・・・
　・・・・・・ごめんなさいっ！」


（何故あやまる？　いや　この状況からすると　はきっと俺に
叱られるとでも思っているのか？）


とにかく　このまま彼女を放っておくわけにもいかない。
今日はこのまま帰宅しても・・・・・・　問題ない。
そう俺は判断する。


　「・・・・・・下の駐車場で待っていなさい。
　１５分で支度をしてくる。」

　「・・・・・・え？」

　「今日はもう全体練習も終了した。君を家まで送っていく。いいな？」


俺は彼女にそう言い残すと　職員室へ急いで戻り　同僚の教諭に
”急用が出来たので帰宅する”と言い残して職員室を後にした。
そして　１５分後には車を発進させていた。

俺は車を　彼女の家ではなく　以前彼女がまだ高校生だった時に
「息抜きだ」と言って連れて行ったことのある
あの丘へと走らせる。

車中での彼女は　ずっと無言だった。
俺はと言うと　昨日友人と交わした会話を思い出していた。


『オマエは言葉が足らなさすぎる。
　言葉に出さずに　分かってもらおうなんて思うなよ？
　ただでさえ　オマエは誤解されやすいんだからな。』


目指す場所に到着し　車を停車させる。
そして　俺が話をどう切り出そうかと考えている間に
の方が先に口を開いた。


　「零一さん・・・・・・　怒ってます？」

　「・・・・・・・・・・・・。」


（・・・・・・怒っているわけではない。
君にこの想いをどう伝えようか　考えているだけだ。）


そう言おうとした俺よりも早く　彼女が話し続ける。


　「ごめんなさい　今日は学校まで押しかけちゃって・・・・・・
　どうしても今日会いたくて・・・・・・　零一さんの誕生日だったし
　それで・・・・・・　あのっ・・・・・・　わたし・・・・・・」


俺はシートベルトを外し　助手席に座っているの方に身体を向ける。


　「ちょっと　不安になっちゃって・・・・・・　零一さんに全然
　会えなくなっちゃって　もうずっとこのままなのかなって・・・・・・
　零一さん　人気あるし　さっきだって　女の子からプレゼント渡されそう
　になってるし　わたしがいなくても　全然平気なのかなって・・・・・・。」


目に涙を浮かべながらしゃべる彼女の顔を見て
・・・・・・頭で考えるよりも早く・・・・・・
俺はを引き寄せ・・・・・・　そして抱きしめていた。


　「少し　だまっていなさい」
　
　「れっ・・・・・・零一さんっ？」
　
　「勝手に考えを自己完結させてしまうのは　君の悪い癖だ」

　「ご・・・・・・ごめんなさい」

　「いや・・・・・・叱っているのではない。ましてや
　怒っているわけでもない」

　「・・・・・・・」

　「その・・・・・・　何から話せばよいだろうか。
　話したいことがありすぎて・・・・・・」


彼女を抱きしめる腕に　力が入る。


　「とにかく・・・・・・　会いたかったのは俺も同じだ。
　今日は・・・・・・来てくれて嬉しかった・・・・・・
　ありがとう。」

　「えっ・・・・・・？」

　「俺もとても・・・・・・君に会いたかった・・・・・・。
　会えない間　ずっと君のことばかり考えていた。」


が驚いた表情をして　俺を見た。
俺は　そんな彼女の頬の涙を指で拭いながら　話を続ける。


　「すまなかった・・・・・・　これからは　君も・・・・・・
　俺に遠慮せずに　もっと我が儘を言ってくれても構わない。
　それを受け止めるくらいの器は持ち合わせているつもりだ。」

　「・・・・・・いいんですか？　零一さん　わたし・・・・・・
　いっぱい我が儘　言っちゃいますよ？」
　
　「もちろんだ。構わない。」
　
　「じゃぁ　零一さんも会いたいときは言ってくださいね」
　
　「・・・・・・そうだな」
　
　「約束ですよ？　ちゃんと言ってくだ・・・・・・」


俺は返事の代わりに　彼女にキスをする。
何度も　何度も　今まで離れていた時間を埋めるように。

そして・・・・・・しばらくして　ようやく俺はゆっくりと
くちびるを離すと　彼女は真っ赤な顔をして恥ずかしそうに
うつむいてしまった。
俺は　そのわずかな間に体制を立て直し　彼女に問いかける。


　「コホン・・・・・・　で　君からのプレゼントは？」
　
　「あっ・・・・・・　そうでしたね。」


はっと我に返った彼女が　鞄の中からラッピングされた小箱を
取り出して　それを俺に差し出した。


　「ハッピーバースディ　零一さん！」

　「開けてもいいだろうか？」
　
　「もちろんです！　気に入ってくれるといいんですけど・・・・・・」


プレゼントの中身は　シンプルな腕時計だった。


　「・・・・・・実はそれ　わたしとお揃いなんです。
　離れていても　ずっと同じ時間を刻めるようにって。」


が自分の腕についている腕時計を俺に見せる。


　「そうか・・・・・・」


俺は今までしていた腕時計を外して　新しい腕時計をはめてみせた。


　「ありがとう。大切にする。」


は満足そうに微笑んでいた。


　「俺からも　君に渡したいものがあるんだが・・・・・・」


俺はポケットから部屋の合い鍵を取り出して　に渡す。


　「これって・・・・・・」

　「これからは　君の好きなときに　俺の部屋に来るといい。
　いや　来て欲しい。」

　「・・・・・・うれしい・・・・・・。」


は鍵を大事そうに握りしめながらこう言った。


　「・・・・・・今度のお休みに　ご飯作りに行ってもいいですか？」
　
　「あ・・・・・・　ああ　もちろんだ」

　「ライ麦パンとセロリとチーズじゃないですよ？」





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せんせぇのお誕生日企画『１１月６日から１２日は氷室先生週間です』
で恐れ多くもフリーにしていたＳＳ「氷室Side」です。

最初はこんな話になるはずじゃなかったんですが（汗）
なんせキーワードは「腕時計」と「合い鍵」だけだったんです。

でも気がついたら　せんせぇ悶々としてしまって暴走・・・・・・。
そして結局　偽物なせんせぇになってしまいました。ゴメンナサイ！
せんせぇなら　絶対誕生日忘れないですよねぇ（滝汗）

ちなみに　１年生の齋藤さんとは　ゲーム中に「齋藤君」が出てくるので
そこからもらいました（笑）。齋藤さんごめんなさーい。

2002/11/10（前編）　2002/11/13（後編）　脱稿。

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